株式によらずモノやサービスの価値は様々な要素によって構成されています。
学術的にはこうした価値を計測する際は様々な前提が置かれて定義されることになります。
例えば、ヨーロピアンオプションの評価手法として有名なブラックショールズモデルでは、市場参加者の間には情報格差が存在せず、また参加者による市場価格への影響はないものとするという強い制約が存在しています。
しかしながら、実際にはこうした前提をクリアすることは非常に難しく、市場でのプライシングをどれだけ明確に定式化できたとしても、定式化の前提によっては意味をなさない、即ちモデルが現実の事象を説明できないということもあります。
こうしたモデル誤差の代表例として、需給の歪みや流動性が挙げられるのですが、この流動性とはつまるところ株が流通しているかというものになります。
簡単に言えば株式の場合、発行済株式数から固定株主の保有分を除いた株数になりますし、規格化するために、取引量をこの値で割った値になります。
流動性そのものがメジャーになりすぎて、最近ではマーケットマイクロストラクチャーという学術領域によって流動性の価値そのものすら定式化されることがありますが、いずれにしてもこうした流動性ファクターは株式や債券、オプションのプライシング以外にもモノやサービスの値段に大きく影響してきています。
例えば、最近のソフトバンクとヤフーが提供しているpaypayのキャンペーンなどは良い例になります。
paypayは最初に購入者がダウンロードすればただで500円がもらえることに加え、還元額が一定金額を越えるまでは20%分のポイントを還元、ソフトバンクユーザーであれば10%の確率で100%還元されるというキャンペーンを行いました。
paypayのポイントは使えるところが少なければどれだけ還元されようにも還元されたポイントが使えなければ誰にも使われません。
この場合の流動性とは換金可能性やポイントの可用性とも言い換えることができますが、paypayの利用店舗が少ないという状態はポイント(言い換えればpaypayというサービスそのもの)の流動性がないとも言えます。
このため、ソフトバンクとヤフーはこの流動性を確保するためにpaypay決済が使える店舗を多くしなければならないと考え、決済手数料を無料にしました。
それどころか店舗によっては1%を還元することによってpaypay決済を増やすということを考えました。
本来ならば手数料を払わなければならない決済において逆に利用料金の一定額を還元するという奇策を繰り出したわけです。
たしかに決済プラットホームにおける売上金額(GMV)拡大の第1KPIは利用可能店舗数、即ち流動性の最大化であることを考えると正しい戦略である事のように思います。
なぜなら決済プラットホームとして最も成功している例が日銀と財務省が発行している貨幣と紙幣による決済システムだからです。
現金以上の流動性は現時点において存在しませんが、現金という複数の実物として存在する流通媒体としての現金よりも、携帯性に優れたスマホという単一媒体の方が潜在的な流動性は高いです。
あらゆる情報がサーバーというネットワークの中で完結する現代においてLINEもソフトバンクも各種金融機関も独自の決済プラットホームを構築しようとしているのはこうした背景があるからです。
成熟した市場では、物やサービスの機能性が満たされつつある中で、流動性という価値が今後ますます重要視されていくと思います。
同時に株式市場において流動性が意識されるのは金融危機以来だったことも忘れてはなりません。
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パウエル五郎

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