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トルコショックとは?
2018年の大きな地政学リスクの一つとして、トルコをめぐるアメリカとの対立があります。
しかも、この対立構造の裏にはNATOなど周辺国を巻き込む複雑な事情が関係しています。
2018年8月10日、慢性的な財政赤字国であったトルコの通貨リラが大暴落しました。
影響は自国通貨リラやトルコ市場の株価の暴落にとどまらず、他の新興国通貨安にも発展し、その後、日本や欧米の株式市場の下落につながるなど世界的にも波及しました。
これが俗に言うトルコショックです。
トルコショックの経緯
そもそもトルコは15年にも渡りエルドアン氏が実権を握り続け、議会の承認も得ずに勝手に大統領制を敷いて自らその座に就くなど、強権的な政治が続いていました。
当初、トランプ大統領とも親密に振舞っていたエルドアン氏ですが、6月の選挙でロシアの大統領立ち会いのもと強権制をより強固なものにすると、雲行きが怪しくなります。
それまで、アメリカ政権に近い立場で、穏健派として知られていたクルド人政党指導者をエルドアン大統領が政治的に排除するなど前々から衝突の火種はありました。
しかし、明確な対立構造が生まれたのはこの選挙が原因で、これ以降アメリカとトルコの関係は大きく変わっていきます。
トランプ大統領とエルドアン大統領の衝突の応酬
トランプ大統領は7月26日にテロの疑いでトルコ政府に拘束されていたアメリカ人牧師の解放しなければ、制裁を加えると発言しました。
この制裁発言以降、なし崩し的に両者の関係は一触触発状態になり、一方が他方の閣僚の資産凍結すると反対に同様の制裁を科すなどお互いの牽制が続いていきます。
そもそも、アメリカ人牧師の拘束は制裁発言の2年前からのことで、このタイミングの発言として不自然に見えます。
実は、トルコは北大西洋条約機構(NATO)というアメリカを中心とした軍事同盟に参加しているにも関わらず、非加盟国のロシアとの関係性を強めるなど、アメリカに対する弱みを握ろうと画策していました。
これはアメリカにとっては軍事機密流出の危険性があり、シリアやイラン、イラクとも隣接しているトルコは中東の防波堤でもあり、ロシアの接近は何よりも避けたいことなのです。
当然アメリカはこれに阻止するため、経済の主要なパイプラインを断つことを判断します。
そして8月10日、アメリカがトルコに対する鉄鋼・アルミの関税引き上げを発表すると同時に先に述べたトルコショックが起きました。
トルコへの経済制裁の効果
実際、トルコはリーマンショック以降、低迷する経済の立て直しのために長引く金融緩和で財政的にも赤字が続いており、また観光業が主要産業としたい思惑があることに加えて、資源も乏しい同国は輸入頼みであるため、経済的にも対外依存度の高い経済構造でした。
アメリカはここに目をつけて、関税引き上げというトルコにとっては最も痛いところを突いたと言えます。
小国のトルコ経済はこの制裁発表を受けて大打撃を受けるのは必至でしょう。
トルコ中銀の利上げと今後の見通し
アメリカによる制裁でトルコ経済は低迷することが予想されますが、トルコショックで何よりも深刻なのはエルドアン大統領の強権政治によって金融政策の中立性が維持できないと見なされた同国の評価が低いことです。
2018年5月14日、エルドアン大統領率いる政府の代表団がトルコの経済政策に対して理解を求め、割安な通貨リラへの投資を呼び戻すため、イギリスのロンドンで説明会を開きました。
しかし、その内容は経済学を無視する内容で、例えば、物価上昇と通貨安の歯止めのため、金利を引き下げるというものなどでした。
そもそも一国の政権の代表者が経済政策を決めるということは金融政策の独立性が損なわれることを意味し、これを聞いた投資家はトルコへの不安を一層高める結果となってしまったのです。
こうした不安感が高まっている中でトルコショックが起きたあと、特にトルコ国内に投資や貸付をしている海外企業への影響が深刻となり、トルコに対する民間の債務問題が意識されると周辺国の株価や通貨にも連想売りが波及しますが、そんな中で一筋の光が見えます。
9月13日、トルコ中央銀行は大統領に屈せずに、また市場の予想に反して6.25%の利上げを決めたのです。
この出来事にはトルコには金融政策の独立性がかすかに残っている可能性を示唆しただけでなく、エルドアン大統領の強権政治が盤石なものではないという評価を対外的にアピールしたことにもなります。
その結果、トルコの金利は24%となり、通貨リラは対ドルベースで10%近く価値を戻すことに成功しました。
エルドアン大統領はこの金融政策によって面目丸つぶれといったところでしょうが、トルコに対する不安感は薄れたことは事実です。
そのため、今後、エルドアン大統領が金融政策に対して介入する可能性が薄まったことに加え、中央銀行による堅実な金融政策が継続する可能性が高まりました。
また、小国のトルコがアメリカに楯突いて良いことはないことは明確で、エルドアン大統領は失脚することはなくても小康状態が続き、どこかのタイミングで和解するでしょう。
トルコショックから感じること
トルコショックはアメリカとトルコの対立構造から発展しましたが、冷静終結した現代でもNATOの軍事機密をめぐる米露の対立構造がいまだに残っていることに加え、中東の混乱も含めて世界経済の潜在リスクが改めて意識された出来事でした。
また、リーマンショックで世界中の経済が連動していることの負の側面が意識され、その揺り戻しとして自国優先や保護主義的な政策が進んだ時代を映す象徴的なイベントでもあると同時に、100年に一度の金融危機の爪痕がいまだに残っていることを意識せざるを得ません。
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パウエル五郎

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