


アメリカ株について語る前に、アメリカという国がなぜこれほどまで強い経済大国になったのか、産業革命と通貨制度という切り口で遡ってみたいと思います。


経済の成り立ちと金本位制の導入
ときはさかのぼること大航海時代。
第一次産業革命によって、綿織物の製造と貿易で19世紀にかけて世界の覇権を握っていたのは大英帝国と呼ばれたイギリスでした。
貿易で栄華を極めたイギリスはイングランド銀行や東インド会社を設立するなど、世界に先駆けて金融市場を整備することに成功します。
当時のイギリスは全世界の陸地の4分の1を植民地化し、各国との貿易で成功を収め、特にインドでアヘンを作って中国に輸出することで大量に調達した銀を根拠に貨幣ポンドを発行していましたが、採掘しすぎた銀の価値は低下し、19世紀に金本位制を移行します。
すなわち、この時代は最も流通した通貨はポンドでしたが、その価値の裏付けは銀から金に移行されることになります。
その後、イギリスは第二次産業革命で成功したアメリカとドイツに工業生産の発展で遅れを取ってしまい経済大国としての地位を失いますが、金本位制をベースとした経済はアメリカにも輸出されることになります。
第一次世界大戦を経て、敗戦国のドイツは戦争責任と多額の負債を負うことになりますが、もう一方のアメリカは戦争によるダメージもなく、逆に戦争特需に沸いて世界一の経済大国となった上に欧州に対する戦後の経済復興を支援して、大幅な貿易黒字を計上し金を獲得することに成功します。
しかし、大量の金の獲得と同時に過剰な設備投資とだぶついたドルがアメリカの株式市場に流れ込んで金融バブルが発生し、1933年にそれが崩壊すると世界恐慌に突入します。
この時、金本位制が最初に停止されることになります。
すなわち各国通貨と金の交換が停止され、基軸通貨である金を失った世界貿易は縮小することになります。
通貨発行をめぐる覇権争い
アメリカの事例から各国は通貨の発行で経済をコントロールすることを知り、世界の覇権争いに突入することになります。
世界恐慌から自国経済を守ろうとしたイギリス、アメリカはブロック経済により貿易を縮小します。

ブロック経済とは例えば石油の輸入をする際に、多額の関税をかけることで実質的に輸入ができなくなるようにすることです。

これに困ったのは経済発展に必要な資源を輸入に頼っていた日本とドイツで、石油獲得のため日独連盟は第二世界大戦へと突入しますが、ご存知の通り地政学的に優れた場所にあるアメリカを中心に、連合国側の圧倒的な軍事力を前に破れ去ります。
地政学的に優れた場所にある、と書いたのは戦場がアジアとヨーロッパ中心に行われた結果、先の大戦同様に戦火を免れたことに加え、連合国側に多額の武器や物資を輸出することで基軸通貨の金を大量に獲得することができたことです。
そのため、発言力が更に増したアメリカは敗戦国への経済支配を狙って、1944年ブレトンウッズ体制に移行し、金とドルの固定相場制を作り出すことに成功します。
ブレトンウッズ体制とは金とドルの交換比率を一定にする制度で、表向きは二度の大戦の契機となった、金と通貨を安定的に交換する制度が崩れないよう、金を裏付けとしたドルによって貿易を保証するものになります。
つまり、それまでの世界経済における価値基準の中心にあった「金」に加えて、「ドル」という概念が加わることになります。
これにより各国は資源の獲得に不安を感じることなく、安心して海外貿易をすることができるようになりますが、その代わりにドルの価値が相対的に強まり、実質的に世界経済の中心にアメリカに移ることになります。
ちなみに当時アメリカと冷戦下にあったソ連は大量の資源を持っており、この資源貿易に対して不安を感じる必要がなかったためブレトンウッズ体制には参加しませんでした。
ブレトンウッズ体制は言い換えると各国通貨はドルを基準にして価値が定められることになります。
これが何を意味するかというと、アメリカにとっては景気が低迷した場合でも「金を保有している限り」ドルはいくら通貨を発行してもその価値が下がらないことを意味します。
そのため、アメリカは金融政策や財政政策の柔軟性が向上し景気対策をとりやすくなりました。
世界経済にとっても物価がドルを基準に固定化されたため、安定した生産計画の策定や貿易がしやすくなり、経済発展が加速することになります。
しかしながら、世界経済と貿易の発展と共に発行しすぎたドルは他国通貨に対して相対的に価値が目減り(減価)したことにより、米国内でインフレが発生し、ベトナム戦争介入による財政赤字も追い討ちとなって1966年にアメリカで保有しているドルの総額が金の貯蔵量を上回ってしまう事態となります。
これはそれまで約束していた金とドルの交換を約束できない事態、事実上のブレトンウッズ体制の破綻を意味しており、1971年8月ついに当時のニクソン大統領は金とドルの交換を停止します(ニクソンショック)。
このニクソンショック以降は、スミソニアン合意による変動相場制への移行、プラザ合意での世界各国での協調介入(ドル安誘導)を経て、それまで1ドル350円で交換されていた日本円は現在の100円近辺まで事実上通貨切り上げが行われることになります。

誰が挑もうがアメリカには勝てないことは2度の大戦を通じて歴史が証明しているのでドル安誘導は各国が飲み込むしかなかったわけ。
日本の佐藤榮作首相は果敢にも抗議をしたけど無視されてしまった。
何はともあれこうしてアメリカにとっては多額の財政赤字を事実上減らすことに成功したわけです。


確かに、ニクソンショックによってアメリカの財政赤字は抑制され、貿易の恩恵も受けやすくなった一方でドルの価値は低下したわけですから、ドルの威信も同時に下がるはずでした。

しかし、アメリカは世界の国々への軍事介入、大量に保有していた金、エネルギー資源の流通を握ることで、以下のように世界貿易における取引の中心がドルであり続けるようにしたのです。
①世界警察としての役割
ソ連というイデオロギー上における共通の敵を作り、軍事上の対立構造(=冷静)を作り出し強大な軍事力を背景に西側同盟国を中心に多額の米国債権を購入させることで、ドルの信任を維持させることになります。
②金の保有
仮にドル基軸体制が崩れても希少価値である金がその代替資産となりうるので、金を大量に保有している国の通貨ドルに対する信任が高いことになります。
③エネルギー資源
1980年以降、ニューヨークで石油先物(WTI)が取引されたことに加え、原油や石油製品のほとんどの国際取引は米ドル建てで決済されるようにしたことで、全世界の国々の経済発展にはドルが必要となりました。
このように戦前、戦中、戦後を通してアメリカの歴史はドルのための覇権争いといっても過言ではなく、ドルを基軸通貨とするためには世界のいかなる場所でも紛争を引き起こし、大量虐殺を厭わず他国を叩きのめし、自国の利益確保を最優先に掲げてきました。
こうした経済力学を覆そうとした例として最近でいうと、原油価格を引き上げようとし(てクウェート侵攻し)たサダム・フセイン大統領、アメリカの転覆を図ったオサマ・ビンラディンらの最後はその代表例ですね。
この構図は第4次産業革命と石油資源からの脱却が叫ばれる現代でも変わらず、世界市場を動かすための最重要かつ希少な資源が石油であることに変わらず、今後数十年間にわたって普遍の原則となります。
そのため、金の絶対的価値と保有を根拠として、また石油という貴重な資源を握っているアメリカが覇権を持つ以上、自国経済にとっての負の影響はどんな些細なことであろうが、全力で排除にしかかります。


次回はそんなアメリカ株式銘柄の中で今話題になっているエクソンモービルについて語ります。

(続く)
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パウエル五郎

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