無配当企業と配当企業に対する投資効率においてどちらが有利なのかという対立があります。
またこうした論争の中にはポジショントークも含まれていることに加え、その本質を見誤っているブロガーもいたりと、どちらが正しいがいまいちわかりづらい点があります。
今回は別の角度からこの論争の切り口を考えて、より少し踏み込んで結論を出したいと思います。
そもそも企業は利益を出し、そのうち内部留保として翌期以降の事業投資や買収対策などのための余剰資金に向けるか、株主に向けて配当金を出すか、さまざまな資本政策を決定しています。
論争になっているのはどちらもメリットが見込めるためで、十把一絡げに判断することは難しいです。
ただしいずれのケースにせよ、利益を出さなければ事業投資も配当も出せないことは共通し、利益を出すためには大なり小なり設備投資を行う必要がある点は変わりません。
どちらも必要なので内部留保の額は多いほどよいかというと、事業投資の規模は企業によって異なるため、キャッシュフローに対して一定程度適切な予算があれば良いことを踏まえると、一概に額が多いから良いというものでもありません。
設備投資を怠った場合、あとで振り返った時に機会損失だったと評価される可能性はあるものの、実損になることはほぼなく、株価に対する影響も軽微です。
むしろ、キャッシュ比率が上がるため財務の健全性が改善すると評価する投資家もいるかもしれません。
逆に誤った設備投資や買収を行なった結果、短期あるいは長期的なコストの増大もしくはのれんの減損処理により、損益計算書における営業損失に繋がって、結果的に翌期以降の事業投資にも悪影響を及ぼしますし、株価にも大きくマイナスとなります。
もちろん正しく事業投資をすればキャッシュフローの改善にも繋がるため、株価にプラスに影響しますが、事業投資が適切かかどうかは事前の綿密な調査が必要です。
ここまで、事業投資をする場合と配当を出す場合のメリットとデメリットをあげてきましたが、どちらもトレードオフの関係にあり、一方のメリットが他方のデメリットになる関係にあります。
そのため、投資家としてどちらが正しい選択か判断がつきづらく、ここまでの議論はバフェット太郎氏始め、多くのブロガーで議論されているものでした。
ここではさらに深く踏み込んで科学してみたいと思います。
まず、先ほど述べたように事業投資の額については、多くの企業で合理的判断がなされているという前提にしても問題はないと考えます。
実際、上場企業ではあればIFRSなどの公開情報上における適切さは監査法人によって担保されているためです。
そのため、事業投資をすべきか、配当を出すべきかはBS、PL、CS上では結論が出ています。
しかし、こうした前提を置いても問題となるのはIFRSなどの財務諸表では公開を義務としていない情報が存在することです。
非公開情報として、財務諸表で示されないざまざまな情報があり、例えば5年後に予定されている親会社との合併が役員間でのみ合意されているケースやMBOが予定されているケースがそれで、場合によって株価を下げるインセンティブが存在することもあります。
問題は公開情報だけでは何が真実かわからない点です。
あらぬ疑いが持たれてしまうこともあり、無用な疑いから投資家の失望につながってしまう点にあります。
こうした疑念を情報の非対称性コストと呼び、常に事業環境のモニタリングや経営の舵取りをしている経営陣と公開情報だけを知っている株主の間で情報格差が生まれていることが原因となります。
行動経済学という学問では、これをエージェンシー問題と呼び、情報格差によって生まれるコストを抑えるためにはシグナリングが必要であるとされています。
そして、実際の株式市場におけるシグナリングこそが配当金を出すことに他ならないのです。
シグナリングとは、例えば学校のテストをしなくても生徒自身が自分の優秀さを示すために自らがアピールすることです。
自分で主張するというシグナリングによって実際にその生徒が優秀であることを事前に知ることができます。
株価も同じで財務諸表で表せない事業健全性や成長性を配当を出すことによってアピールすることができるため、少なくとも情報格差に基づくエージェンシー問題を解消することができます。
ここまで読んで勘の良い読者なら疑問に感じるかもしれませんが、シグナリングを通じて情報格差を是正できるのは配当だけではありません。
シグナリングが資本政策におけるアピールと捉えるなら、配当以外にも事業投資や自己株償却によっても実現することができるからです。
しかし、このシグナリングによって株主が恩恵をもたらされる度合いは異なります。
例えば、事業投資によって翌期以降の収益状況が改善されても株主に還元される可能性について考慮しておく必要があります。
収益環境が改善されても株主に対して利益を還元をしない企業もありますし、自己株償却などの株主還元策を行なったとしても、継続性かつ下方硬直性のある配当金を拠出する企業に比べるとシグナリング効果としては弱いです。
少なくとも全く同じ事業環境においては株価に対するシグナリングの効果として、配当金を出した方が適切であることがわかります。
そのため、公開情報に基づいて全ての企業が合理的な事業投資を行なっている前提の上、非公開情報による利益の再分配として配当を出すことにより、非公開の情報格差が是正されるため、事業の透明性が高まり投資パフォーマンスが向上するのです。
そのため、何を見るべきかでいうと、キャッシュフローが回っていること、本業が安定していること、特に今の時期のように景気がこれから落ち込む可能性がある場合は個人消費が設備投資が落ち込む時期にさしかかった時に、業績が安定していることなどが期待されますが、これらを踏まえた上で、配当を出している企業に投資すべきことがわかります。
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パウエル五郎

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