今日はアマゾンについて調べてみたいと思います。
アマゾンといえば、スーパー大手のホールフーズマーケット(WFM)買収を発表し、10億ドルでオンライン薬局の新興企業ピルパックの買収して処方薬販売などのヘルスケア市場に参入したりとニュースに事欠きません。
アマゾンはオンラインの会社だと思われていますが、主に3種類の買収をすることによってオフラインで人々の私生活全般をカバーしようとしています。
すなわち、
・それまでアマゾンが弱いとされていた玩具やアパレル、ペット用品などの会社を買い取ることで、ECジャンルの面を多様化させ、
・本や音楽、ゲーム、教育、映画などのコンテンツ力を強化しながら
・AIを活用した音声認識などの技術投資によってALEXAなどのIoT分野、ホーム家電を抑えることで
インターネット空間におけるオンラインの会社から、日常生活における接点を増やして人々の暮らしに深く入り込んで行くという戦略を取っています。
こうした戦略が奏功し、株価は先週ついに2000ドルに達し、この一年間で2倍になったことがわかります。
これによって時価総額も先日、アップルに次いで史上二社目の時価総額1兆ドルを突破したことも話題となりました。
トヨタの時価総額が20兆円くらいなのでアマゾンはトヨタ四社分の価値があると言えます。
一方で、その急すぎる株価の伸びを不安視する声も少なくありません。
実は管理人もその一人で、昨年アマゾンの株価が1000ドルに満たなかった時から徐々に買いましてきましたが、
流石に上昇ピッチが早すぎるため、一旦調整が入るだろうと思い、2000ドルを突破した際に全株売却しました。
その後、幸か不幸か、1930ドル台まで調整が入りますが、この記事を書いている9/10現在も2000ドルに届かない状況が続いています。
今回は押し目を拾うべきか、更なる調整を見据えて見送るのか、冷静になってアマゾンという会社を見るため、6月に発表された財務諸表を個人的に評価してみようと思います。
アマゾンは世界的にも有名な企業なので様々なサイトで分析されたり、意見が述べられたりしていますが、
ここでは財務にそこまで詳しくない人のために、なるべくグラフや図で説明できたらなと思っています。
Contents
どのくらい儲かっているの?
上の図は左から貸借対照表の借方、貸方、損益計算書の純利益、営業利益、売上高という順に描いて見ると
資産をどれだけ有効活用して売上や利益を出せているのかという資産回転率を見ることができます。
総資産に対する売上高の回転率という観点で見ると、およそ1.35倍と非常に高いです。
単純化してわかりやすく説明すると、要するに1円を使って1.35円を作り出しているわけです。
これは通常の企業の目安が1倍であることと比べるとかなり高い数字で、保有している資産を効率的に活用してビジネスを行えていることがわかります。
利益の効率性は?
ただし、いくら売上をあげていても利益を出していなければ意味がありません。
次は最終的な利益(純利益)に対する効率性を見てみます。
利益の効率性は通常、負債を除いた株主の持分(自己資本)に対して評価されるので、自己資本利益率(ROE)という指標が用いられます。
アマゾンのROEは2015年0.04だったところから、2018年2Q(※)には0.18になっています。
ROEは通常0.1を超えていれば効率的である言われているので大幅に改善していることがわかります。
※2015年net incomeが$596M、total assets が$13,384Mとし、2018年2Qは2017年3Qからの一年間の売上高と純利益を活用しています。
自己資本比率が高すぎないアマゾンのROEが低かったのは、ECジャンルにおける物流コストがかさんでいることに加え、企業買収などにより利益が圧迫されていたことが原因とされています。
これを裏付けるため、ROEをデュポン分解と呼ばれる方法で詳細に調べてみることにします。
ROEは純利益と純資産で計算されますが、これらのデータに加えてさらに売上高と総資産を用いて、次のように売上高利益率、総資本回転率、財務レバレッジに分けています。
売上高利益率(A) | 総資本回転率(B) | 財務レバレッジ(C) | ROE(A*B*C) | |
2015年 | 0.56% | 1.64 | 4.89 | 0.04 |
2018年 | 3.02% | 1.55 | 3.83 | 0.18 |
このように分解すればROEは売上高利益率、総資本回転率、財務レバレッジの掛け算で表されるので、各指標を比べれば一目瞭然ですが、(A)売上高利益率が5倍以上改善しており、この比率の高さがROEの改善に大きく寄与していることがわかります。
これは物流コストが下げられたということを意味していますが、高収益体質の外部企業の取り込みに成功し、利益率が改善したことを意味しています。
先ほど述べた収益体質が改善されたことを裏付ける結果となりました。
次にセグメント毎に収益状況をみていきます。
まずは北米EC事業を見ていきます。
北米EC事業 | 2015 | 2016 | 2017 |
Net sales | 63,708 | 79,785 | 106,110 |
Operating expenses | 62,283 | 77,424 | 103,273 |
Operating income | 1,425 | 2,361 | 2,837 |
売上高利益率 | 2.24% | 2.96% | 2.67% |
売上高構成比 | 59.54% | 58.67% | 59.66% |
売上の構成比は全体の約6割程度を占めていますが、利益率は低めで2.7%となっています。
海外EC事業 | 2015 | 2016 | 2017 |
Net sales | 35,418 | 43,983 | 54,297 |
Operating expenses | 36,117 | 45,266 | 57,359 |
Operating income(loss) | -699 | -1,283 | -3,062 |
売上高利益率 | -1.97% | -2.92% | -5.64% |
売上高構成比 | 33.10% | 32.34% | 30.53% |
意外なことに、アメリカ以外のEC事業は赤字でしかも年々赤字幅も拡大しています。
これは文化や生活習慣の違いを吸収できず、思うように売上高が増やせないことに加え、物流コストの増大を抑えきれていない可能性があります。
サーバー(AWS)事業 | 2015 | 2016 | 2017 |
Net sales | 7,880 | 12,219 | 17,459 |
Operating expenses | 6,373 | 9,111 | 13,128 |
Operating income | 1,507 | 3,108 | 4,331 |
売上高利益率 | 19.12% | 25.44% | 24.81% |
売上高構成比 | 7.36% | 8.99% | 9.82% |
売上に占める比率は全体の1割程度ですが、最も利益率が高いのがサーバー事業です。
全世界のクラウド上におけるインフラビジネスの世界シェアは相変わらず、このAWSが独占的に占めており、しかもこの売上高に占める存在感も年々増してきている稼ぎ頭です。
上記収益額をみてみると、海外EC事業の赤字幅を、このAWS収益がほぼ同額まかなっている状況です。
海外セグメントで赤字が出ているものの、アマゾンは利益を出そうと思えば出せる体質なので、利益率を改善するために買収したというより、キャッシュフローや売上高最大化を実現する過程で利益率が結果的に改善したという方が正しいかもしれません。
以上から、ROEの改善は影響の大小こそあれ、事業シェアの高い北米EC事業の収益率の改善、AWSのマーケットシェア拡大に加え、買収による連結対象に入った子会社の利益連結化によるものと捉えて良さそうです。
アマゾンの株価は割高?
世界的な関心事の一つとして、アマゾンが株式市場から受けている評価が割高なのか割安なのかという点があります。
左の貸借対照表の貸方から会社の正味の現在価値は350億ドルであることがわかりますが、現在、株式市場における時価総額はその30倍程度になります。
ちなみに正味現在価値というのは総資産から負債の額を除いた金額ですので、今アマゾンが倒産した時に借りているお金を全部返済した後に残る資産のことです。
また会社の時価総額は株式市場で売買されている会社の価値ですので、会社の評価そのものと言えます。
株式市場で評価を得ている会社の価値(時価総額)がこの資産の額の30倍になっているのは驚きです。
この比率のことをPBRと呼びますが、日本の代表的な銘柄のPBRが1.2倍であることを踏まえるとアマゾンのPBRはとんでもなく高いことがわかります。
また利益に対する時価総額の比率をPERと呼びますが、アマゾンのPERは159倍と(日本の平均は10〜15倍に比べると)これもまた非常に高いことがわかります。
PERは株価(時価総額)が会社の未来の利益何年分として見込んでいるのかを表しています。
※話がそれてしまいましたが、この高すぎるPBRやPERについてはアマゾンの死角として最後に触れます。
このように高い効率性の下で、利益を圧縮するほどのコストをかけて高い成長率を維持しているアマゾンですが、次に過去の成長の軌跡について確認してみようと思います。
会社の規模の成長曲線
買収によって総資産が堅実に増えている一方、売上高はそれ以上に成長していることがわかります。
アマゾンのAR(Annual Report)を見るとわかりますが、非常に珍しいいことにPLやBSよりも先にキャッシュフロー計算書が掲載されています。
これは買収によって会社としてのキャッシュフローが着実に伸びていることに加え、投資家には、利益よりも売上、売上よりも営業キャッシュフローをみてもらって、買収戦略が高い成果を示していることをアピールしたい狙いがあると思います。
財務の健全性
最後に会社としての安全性を見るため、資産の内訳を表す貸借対照表(バランスシート)について見てみます。
自己資本比率は26%と安全性の目安である40%と比べるとやや低め(負債比率が高い)ですが、その分財務のレバレッジが効いており、買収戦略についてはどちらかといえば借り入れメインで実施していることがわかります。
短期の返済能力を表す当座比率は80%で目安の90%をやや下回りますが、支払い難ありの基準である70%を上回っているのでそこまで問題はないと考えます。
まあここら辺は天下のアマゾンということもあって抜かりなく、安全性については問題なく、そつがない財務体質であると言えます。
足元の数ヶ月を見ると、利益の伸長を背景に現金が着実に積み上がっています。
この決算発表の後、ピルパック買収を開始していることも背景にありますが、
逆にいうと買収直前には現金比率が高まる兆候があるので、将来も引き続き異業種を買収して行く姿が予想されます。
2018年1月と4月に会員費が上がったプライムサービスですが、こうした買収戦略と関連しているとすると、
今後も買収は続けていくでしょうから会費値上げは引き続き行われる可能性がありますね。
株価も順調に伸びているが、高い成長性に死角はないのか
1億人いる会員ビジネス「プライムサービス」を展開することで収益の安定性を図りつつ、収益の多角化を図りながら、安い労働コストと利益を極限まで圧縮することによる優れた財務戦略を背景に高い成長率を維持している同社ですが、その成長戦略に死角はないのでしょうか。
ここまで管理人が数値を整理しながら思った点を羅列してみます。
・95年7月にサービスを開始したECサービスは頭打ち感があるものの、国内市場において売上、利益ともに堅実に推移
・AWSなどのクラウドインフラビジネスの伸び率が高く、今後の安定的な収益源となる。
・バランスシートは健全性で、短期、長期共に借り入れ状況に問題はない。
・市場平均よりも、高すぎるPER,PBR
最後に挙げたPER、PBRが割高である点については、特に国内外のアクティブファンドやテック系の投資信託に積極採用されていることを踏まえると、マクロ経済の影響を受けやすくなる可能性があると考えます。
すなわち、日本人にも海外の投資家にも受け入れられているVTI(投資信託:バンガード・トータルETF)などにも積極的に組み入れられておりますが、FRBによるテーパリングが続く中で、欧州不安などに端を発した世界的な信用収縮によってリスクマネーの流動性が低下した時にそのあおりを大きく受ける可能性があります。
景気循環は10〜12年サイクルでやってくると言われている中で2000年ITバブル崩壊、2007年リーマンショックと続いた後、昨年、今年も何事もなく平穏無事な相場つき、米国中間選挙を控えている米国の株価が連日高値を更新し続けています。
VTIなどの流動性が極限に高まった状態でのETF組入銘柄はアフリカや新興国の成長ブレーキ、ブレグジットや債務危機などの影響を受けやすい欧州株不安や地政学的リスクによって価値が剝落しやすい状況と考えます。
高すぎるPBRは他のFANGについても同様に言えるので、最近の傾向として先進的なテクノロジー企業はPBRで測れないとする声もありますが、資本市場における価値尺度というものは普遍的なものです。
確かにこれだけグローバルに展開している企業は稀ですが、一企業だけ例外ということはないでしょう。
アマゾンの調査結果まとめ
これまでアマゾンは多数の選択肢として取りうる利益を増やす手段よりも、売上最大化として成長する手段を優先してきました。
短期の利益よりも将来の市場シェア拡大を優先しているとも言えます。
こうした考えの元には市場シェアを拡大すれば利益はいつでも作れると考えているためです。
事実、アマゾンは今年米国におけるプライム会員の値上げを実施しましたが、会員数は大きく減少していません。
セクター別にみてみると、処方薬ビジネスへの参入や有料会員(プライムサービス)の増大によって、利益率の底上げと同時に、EC事業独特な季節変動を回避することに成功しています。
また人工知能などの技術投資によって、自動車産業、家電業界におけるalexa活用からの収益化など私生活に入り込んだ幅広い収益化を狙うことができます。
またAWS事業も順調拡大しております。
日本ではサクラやGMO、nifty、onamaeなどが有名ですが、利用サービスとして圧倒的な人口が多い海外で使われているWebサービスの大部分がawsを活用していますが、今後アクセス数やサービスが増えるに従い、aws収益伸長が見込めます。
こうした事業ポートフォリオの多様化によって収益状況は安定しつつありますが、不安要素として潜在リスクもあります。
全世界的な物流や小売、生活の基幹サービスとして影響力のある企業となった今、リスクに対する感応度として高い銘柄となったことは間違えありません。
時価総額の増大によって世界的に有名なETFや指数やインデックスファンド組み入れによってマクロ経済の影響を受けやすくなったためです。
また物流コストの増大と大型買収による減価償却費の増大によって利益を圧縮しているとして目をつけられている同社は結果的に支払う税金が少なくなる恩恵を享受しつつ、海外依存度の高い事業特性からトランプ大統領から名指しで批判されていることもリスクの一つです。
こうしたメリット、デメリットを評価すると、短期的には買い、中長期的にはニュートラルというスタンスです。
買い要因としては、AWS収益伸長に加え、プライムの会員数増大に加え、何よりも子会社化によって事業の多角化を行うことで収益環境が改善すると思うためです。
管理人としては、短期的に上がりすぎた株価の調整が起きうると考え、メリットよりもデメリットの方が影響を受けやすいと思い、当分は手を出しません。
ただ、10%以上の下落があった(株価が1800ドル以下になった)場合には下値を拾いに行きます。
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パウエル五郎

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