機関投資家を辞めたファンドマネージャーが語る個人投資家の売買戦略

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このサイトはメガバンクや外資系の証券会社でファンドマネージャー、アナリストとして15年以上株式投資に携わってきた私が個人投資家に転身した後に経験した失敗談や成功体験を明文化しようと思って作成したサイトです。

教科書通りの話では面白くないし、かといって単なる投資家の経験談を聞かされても興味を持てないと思うので、実際に投資をして感じた生の感触を記していきながら、株式市場に大きな影響を与え得つつも、秘密が多い機関投資家の投資行動について解説し、その上で個人投資家としてどのように相場と戦うべきかについても綴っていきたいと思います。

機関投資家のイメージ

みなさんは機関投資家と聞くとどのようなイメージを持たれているでしょうか。

機関投資家にはメガバンク、信託銀行、証券会社、投資銀行、保険会社などを指しますが、具体的な定義というものが存在せず、一言で言えば運用している資金規模が大きい投資家ということになります。

機関投資家はその内部の一部門で、国家予算1年分ほどの資金を扱っており、年によっては数兆~十兆円を超えることもあります。

部門構成としては、運用部門の下に幾つかのチームに分かれていて、各チームごとに運用戦略が異なります。

例えば、株式指数に連動するように運用するパッシブ運用や、株式指数よりも良い成績を残そうとするアクティブ運用などの大きな分類があって、さらにそこから日本株に投資するのか、海外の株式や債券や金などのコモディティに投資するチームなどに分かれ、株の場合、割安投資なのか成長投資なのかなどに分かれています。

少し専門的になりますが、最近ではパッシブ運用においてどれくらい市場全体に連動させるかという指標を伝統的ベータと呼ぶのですが、他には野村証券が開発したラッセル野村(Russel/Nomura)企業価値インデックスを構成している銘柄による株価指数に連動させるエキゾチックベータ(スマートベータ)運用という手法など多種多様なファンドが存在します。

こうしたインデックスは国内外に非常に多く、割安、グロース、企業価値などのファンドで重視している思想にマッチした指数によって運用されています。

資産規模的にはアクティブファンドよりパッシブファンドの方が格段に大きいのですが、メガバンクなどの大手金融機関では一チームは大体10名以下の数人体制で構成されていて最大数兆円から最低でも数百億円規模のファンドを運用しています。

こうした運用資金のうち、毎日様々な理由で売買する必要があるのですが、大体運用総額のうちの最大で1日あたり数%ほどの額を売買します。

5兆円の2%で売買総額は1,000億円程度で、最近の東証(日本証券取引所)における全投資家による1日の売買総額は平均して1兆円程度なので、規模の大きさはわかっていただけるとおもいます。

だいたい、多い時は東証(日本証券取引所)の売買総額の60%以上が機関投資家によって売買されることもあります。

こうした運用戦略は機関投資家によって仔細には違えど大きくは変わらないため、こうした売買をしている日は市場が一方向に動くことがあります。

鋭い人にはわかるかもしれませんが、機関投資家の一挙手一投足が日経平均や日本の株式市場全体を動かすインパクトを持っているので、

この株価を動かす理由がわかっていたら事前に投資行動を先回りして儲けることができるのではないかと思うかもしれません。

確かに機関投資家というのは顧客から預かっている資産を健全に運用しているという裏付けが必要なので、運用戦略に一貫性が求められ、こうした投資行動やその裏にある運用戦略は基本的に大きく変わるということはありません。

従って、こうした投資計画などは全て、超がつくほどの極秘事項として秘匿性が高く、外部からその運用計画を窺い知ることは難しいとされていました。

しかし、現状ではこのサイトのように機関投資家の行動が少しずつリークされてきて、個人投資家としてどのように戦えば良いのか明らかになっています。

私は投資家間で公開情報に格差があることは市場価格を形成される上で好ましいことだと思わないのでどんどん開示していこうと思います。

実際、これを実践して大金を稼いだ人がいます。あの有名なcis氏もその一人です。

日本の金融市場は外資系の力が強いと言われていますが、

それは比較的中規模以上の資産を機動的に動かせる(売買できる)からであり、資産規模自体は日本の機関投資家にはかなわないので、こうした投資家のお金が動く時は市場もそれに連動する形で大きく動きます。

日本の機関投資家は彼らよりも多額の資金を持っていますが、運用戦略の一貫性を重視するあまり柔軟性がなく、同じ投資行動を続ける傾向があります。

したがって、売買行動を予測しやすく、こうした傾向は再現性も高いという傾向があります。

個人投資家としてはここに注目すべきです。

市場には株価がどのように動くか事前にわかる局面はそんなに多くありませんが、機関投資家の売買行動が読めれば確度の高い貴重な収益機会となりえます。

しかも再現性のある局面はなおさら貴重なものとなります。

例えば、公募増資に対する対応方法や、TOBに対する対応方法、TOPIXや日経平均などの指数構成銘柄の入れ替え、企業年金の投回収などはそうした一例となります。

詳しくは別途ページで説明します。

機関投資家の売買フロー

個人投資家として、再現性ある株価の”動き”を作り出す機関投資家のファンド運営ルールを知っていれば自分の投資行動に役立てられ、貴重な収益機会を作ることにもつながります。

ここではこうした運営ルールについて説明していきます。

機関投資家の中には他人から預かったお金を運用するファンドと、銀行や証券会社自らの資産を運用するファンドで大きく異なるのですが、まず前者から説明します。

お金を預かって運用するファンドには、顧客に運用を指示する投資顧問契約と顧客の資産を預かって機関投資家自らが投資行動を行う投資一任契約の二つの契約形態があるのですが、運用上の細かいルールはあれど大きな違いはありません。

また運用ファンドにはパッシブファンドとアクティブファンドの二種類があるとお伝えしましたが、今回は金額が大きく影響度が比較的大きいパッシブファンドを中心に説明していきます。

アクティブファンドの場合は手数料が高くなる傾向があって、また市場ベータに対して勝てないことが多いのでパッシブファンドの方が金額が大きくなります。

機関投資家が顧客から預かったお金を受託財産と呼ぶのですが、メガバンクなどでこうした受託財産を運用する場合、最低でも数百億、最大で数兆円規模のファンドとなります。

また一回の売買で最低でも数十億円、多い時には1,000億円規模のお金が動くことになります。

日本で最も取引量が多い東証の最近の売買金額は約1兆円なので、1社でその10分の1の金額が動くことになります。

これほどの金額が動くと買いの場合は日経平均を押し上げるほどの買い圧力になり、売りの場合は同様に押し下げます。

こうした売買が発生するのは大きく二つのイベントに分けられます。

売買イベントその1:資金投回収

一つは顧客からの資金の投回収と言って、例えば年金顧客の場合は退職者に支払う給付金の場合は資金回収、すなわちファンドから顧客に資金を回収するためにファンドで保有する銘柄を売却します。

逆に同じく年金顧客による現役世代からの年金の支払いの場合は資金投入、すなわちファンドに資金が入ってくる場合は入ってきたお金を使って投資対象銘柄に対して新規に買い付けを行います。

こうした資金の投回収は基本的に受託財産の保有者である年金顧客や保険顧客などから日次で指示を受けます。

早いと数カ月前から投回収の指示はありますが、直前になって変更になったりしますので、それが実際に投資行動として売買計画に盛り込まれる2、3日前ということになります。

資金の投回収の場合、ファンドによっては複数の年金顧客からの受託財産の金額が少なければ(実際には数千社の)複数顧客をまとめて一ファンドとしてまとめられることもありますし、

非常に大きな資金を保有する顧客の場合は一社だけで1ファンドとなることもあります。

世界で最も大きな資産を持っているGPIFという日本の年金基金は大口顧客の一つです。

GPIFは年金積立金管理運用独立行政法人と呼ばれていて、日本の全国民の公的年金を預かっている年金基金ですが、

その額は世界最大の資産で、一社の機関投資家に数兆円も預けることがあります。

通常、リスク分散の観点からGPIFからの受託財産は何社かに分散して預けられているため、資金投入や回収があった場合は複数の機関投資家でほぼ同時に売買が行われることになり、急激な株価変動につながることになるのです。

当回収は毎月同じ日に行われることはなく、”狙い撃ち”されないように変動的な日程で行われますが、一度GPIFの買いが入ると連続して買われますのでその後も上昇傾向が続くことになります。

これは資金投入や回収などは一度に行わずに何日間かに分けて分散して売買をするからです。

実際、GPIFの運用指示書には自らのインパクトによって市場の合意的価格形成が歪まないようにしなくてはいけないと書かれています。

このような年金基金のような大口の顧客は資産の元の所有者である受給資格者の資産を毀損しないことが大前提があります。

この大前提が崩れて損失が拡大してしまうと、GPIFの場合であれば、運用が下手という風評が独立行政法人の責任に、ひいては政権批判にもつながることになるからです。

したがって、自分で買い上げて高いところで買ってしまったら元も子もないわけです。

実際の運用現場では、GPIFを資金担当のファンドマネージャーは投入があった時には、かなり神経質に売買をすることになります。

特にインパクトの大きな銘柄の場合、単純に買ってしまうと自分の買い注文のインパクトによって株価が上昇してしまうので、それを防ぐために時間を分散して、買っては利益確定の売りを待って株価が下がったところでまた押し目買いをするということを繰り返します。

こうした場面では、株価は下がることがありませんので、個人投資家としては買いを入れるチャンスとなります。

また一週間から長い時では1ヶ月ほどかけてこうした売買が行われますので、押し目買いが安定的に入るような局面のようにGPIFの買いが入っているなーと思ったらとりあえず買いを入れるチャンスだと思った方がいいでしょう。

GPIFの買いが入っているかどうかはニュースや新聞などでも取り上げられますし、GPIFの毎月の収支報告などでも基本ポートフォリオの変更という項目があって、その中で債券から株式に何%を振り替えていく(アセットアロケーション)という記載でも見ることができます。

売買イベントその2:TOPIX買い

さて、機関投資家が売買するもう一つのイベントは指数構成銘柄の入れ替えです。

GPIFなどの大口の顧客は資金特性に公的な色合いが強いため、大きなリスクを取りづらい事もあって、大部分がパッシブファンドを利用しています。

パッシブファンドとは資産をTOPIXや日経平均などの株価指数に連動するように運用するファンドです。

日経平均であれば225銘柄で構成されているので、パッシブファンドもほぼ同じ225銘柄を保有しています。

※ただ年金の投資家であれば時価総額加重平均であるTOPIXを採用する傾向があります。ここでは分かりやすく日経平均で説明しますが本質的には指数が変わっても内容は変わりません。

この株価指数は年に数回、指数を構成する銘柄を変更するタイミングがあり、同じタイミングでファンドも売買します。

例えば、日経平均であれば年に一回、TOPIXであれば年に四回定期的に入れ替えを行うタイミングがあります。

2015年であれば10月に日経平均の構成銘柄から長谷工とDENAを新規に組み入れ、平和不と日東紡を除外しました。

ほぼ同じタイミングでパッシブファンドは前者の2銘柄を買い付け、後者の2銘柄を売却します。

以下の図を見るとわかるように、日経平均入れ替えが発表された直後に大きく株価が動いています。

日経平均組入れ除外発表後に大きく売られる日東紡(3110)

日経平均除外発表後の日東紡

これは日経平均に連動するファンドが発表直後にこの銘柄を大量に売りまくったことが原因です。

つまり、株価指数そのものが変われば、ファンドも売買を行って指数にマッチするように運用します。

このように指数連動型ファンドが、連動対象の指数の構成の変更に伴い売買をすることをGPIFのTOPIX買いなどと呼ばれますが、個人投資家としてどのように売買すれば良いかを考える時に重要なのは売買するタイミングです。

2010年くらいまでであればGPIFの場合、指数の組み入れタイミングでファンドでTOPIX買いをしていましたが、

現在では買いのインパクトを分散化させるために、入れ替えの内容が発表されてから組み入れ日後まで分散して買い付けることになります。

あまり知られていませんが、昨今のパッシブファンドの顧客は指数と全く同じ動きでは評価されず、より効率的な運用が求められているのです。

例えば、少し前までは指数よりもリターンがプラスになることはマイナス評価でしたが、最近ではプラス評価とされるようになっています。

むしろ指数と同じ動きをしていても、売買手数料の分だけ収益率がマイナスになってしまうので、指数に連動しつつも少しでも安く買って高く売るということを心がけなくてはならなくなりました。

GPIFを例に出すと、受託した機関投資家のファンドマネージャーが他のファンドの売買日程と被らないように、

また当回収のスケジュールを加味しながら、相場の押し目で買い付けるように、日々工夫を重ねて売買を行っていきます。

そうはいっても組み入れ日からあまりにも離れた日程で売買してしまうと指数との連動性が損なわれてしまいます。

パッシブファンドはこうした連動性(トラッキングエラー)に評価軸のほとんどが置かれるのでこうした事態は避けなければなりません。

つまり、市場にインパクトを与えないように売買しなくてはならない一方で、連動性を損ねないようにあまり組み入れ日から離れたところでは売買しないようにしています。

ファンドマネージャーとしての実質的な判断でいうと、最も大きな入れ替えを行う10月の定期入替を例に説明しますと、構成銘柄の変更が10月の月初5営業日目の午後16時に発表されるので6営業日目の朝9時から売買が始まり、それから約2ヶ月間かけて売買を分散させていくことになります。

ちなみにですが、指数変更は変更日(10月末日)から反映されるのですが、この時の組み入れ度合いは反映日の前営業日(X-1と呼ぶことにします)の引け値の株価を根拠に行われるので、このX-1の引け値付近で最も大きな売買が行われることになります。

これだけを聞くと、じゃあ10月6営業日目の朝から徐々に買い付けて、X-1の引け値付近で売ればいいと思うかもしれませんが、

このタイミングで売る投資家が多くなってきたため、X-1の引け値付近は株価が大きく変動してきます。

X-1に限らずパッシブファンドを狙い撃ちにした投機的な売り注文が10月中に何度か発生するためです。

そうはいってもGPIFの買い注文はこうした売りよりも桁違いに大規模なものになりますので、株価が上昇傾向にあることは変わりません。

私がお勧めする個人投資家の売買戦略は、組入れ度合いの最も大きな銘柄を10月6営業日の朝9時から10月中旬の売りが入ったタイミングで押し目買いをし、(X-1ではなく)10月末の5営業日くらいまでの取得原価より高い値段になったところで利益確定をするということです。

もちろん、それ以外にもTOBや公募増資への対応、信用リスク懸念銘柄の対応などいろいろありますが、詳しくは別途ページで説明します。

まとめ

今回は機関投資家の売買行動に基づいた個人投資家の行動戦略を考えました。

GPIFやパッシブファンドに関して世の中で誤っていたり、知られていない情報がある中、実際に有効な戦略として参考にしていただけたら嬉しいです。

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パウエル五郎

名前:パウエル五郎 年齢:30代 経歴:サラリーマン時代は赤い銀行で国内外の株式のアナリストやファンドマネージャーなど一貫して株式のトレーディングに携わる。 現在は日本株の個人投資家として独立。2016年にアマゾンを購入してからひたすら買い増し、現在はVTなど世界分散投資も実践。